「引きこもりの親亡き後問題」。「8050問題」などとも言われていますが、これも現在社会の大きな問題として捉えられています。
何らかの理由で成人になっても働くこともできず、家の中に閉じこもりがちになってしまう。両親が健在の時は何とか生活を送ることはできるのですが、両親が亡くなった後には多くの問題が降りかかります。
今回は、健常者とされている方が引きこもり状態になっている方の「親亡き後問題とその対処法」についてお伝えしていきます。
今回の事例
両親ともに80歳、子は50歳で一人のみとします。子は大学卒業後、就職することなく家に閉じこもりネットやゲームを一日中しています。両親は自己所有の一軒家に住んでいます。
親亡き後に訪れる問題
両親が亡くなった後、子に襲い掛かる問題にはどのようなものがあるのでしょうか。想定される問題を順を追って挙げていきます。
葬儀や手続きなどの死後事務
人が亡くなると、たくさんの手続きを行わなければなりません。両親のどちらかが亡くなった場合は、もう片方の親が死後事務を行うことができますが、もう片方の親も亡くなってしまった場合、死後事務は子が行わなければなりません。
大きく死後事務とまとめていますが具体的には、死亡届や火葬許可証等の手続きから始まり、葬儀、家の片付け、社会保険手続き、電話や光熱費の名義変更、相続手続きなど様々な手続きを子一人で行わなければならなくなるのです。
家の名義変更手続き
今回の例は持ち家の一軒家という想定ですが、これも相続手続きをして登記名義を親から子へと移転させなければなりません。何も手続きをしない場合は両親名義のまま放置されてしまうこととなってしまいますので、固定資産税の支払いについても不都合が生じます。
また、賃貸マンションであった場合。賃貸借権は当然相続できますが、その手続きについても追及されるかもしれません。大家さんとしても支払状況が不安定になることを懸念してしまいます。
食事や衛生面などの生活部分の問題
今まで両親が食事を作ったり、子の生活のサポートをしてきたことと思いますが、もうそれをしてくれる人はいなくなります。そのため、食事がコンビニ弁当中心となったり、衣服の洗濯がおろそかになったりして衛生面でも問題が生じることになるでしょう。
家に引きこもることが続いていくのですから、病気の徴候があったとしても通院せずに放置して悪化させたり、孤独死して長い間発見されなかったりする可能性もあるでしょう。
資金が尽きた時に焦っても遅い
両親が資金を残してくれた場合はしばらくは不自由なく生活できるかもしれません。しかしそれも長くは続かないでしょう。貯金には限りがあるため、それが底をついてしまった時、急激に環境が変化してしまいます。
生活保護を受ければ良いと思うかもしれませんが、生活保護の受給手続きは大変難しく、また受給要件も厳しくなっています。お金が無くなった時に慌てて生活保護を考えるのは好ましくありません。将来生活保護を受給しなければならないと考えていても、それを踏まえたライフプランの設計が必要となります。
仕事に就く大変さ
50歳になるまで、ほとんど仕事に就いたことが無い方もいるかと思います。そこからいきなり仕事を探して働き始めるのは大変困難と言えるでしょう。ハローワーク等でも就労支援に関する相談や訓練をおこなっていますが、そもそも働く気が無かった者が働き始めるのは大変なものです。
ここでは「とにかく仕事に就くこと」よりも、「自分ができそうな仕事を見つけること」を重視した職探しを検討した方が良いかもしれません。
引きこもりの子を持つ親の対処方法
先ほどからお伝えしているとおり、両親が亡くなってから一人で対応方法を考えることは非常に困難です。
しかし、両親が生きている間にできることはたくさんあります。ここでは両親が子の「親亡き後問題」に対処する方法をお伝えしていきます。
民事信託の活用
民事信託とは、信託銀行等にお金を預ける商事信託と比較して、一般市民が気軽に行うことができる信託として注目を集めています。
例えば、両親が子のために自分の財産を第三者(親族等)に委託して、子のために使う契約を結ぶことです。
もし多額の財産を子に相続させたとしても、子が計画性もなくその財産を散財してしまったらどうなるでしょう。子が自分で自分の首を絞めることとなります。
民事信託を利用した場合、子が計画的に財産を使えるように、親が設定した計画で財産を子のために使うことができるのです。
死後事務委任契約
両親が亡くなった時、死亡に関する手続きや葬儀、相続等を残された子が一人で行うことは困難です。
これには、両親が生前に「死後事務委任契約」を結ぶことで解決できる可能性が高くなります。
死後事務委任契約とは、自分が死んだ後の事務手続きや相続手続き等を第三者に委任できるというものです。これにより、残された子の死後事務についての負担はほぼ解消できると言えるでしょう。
死後事務委任契約は、法律行為も含めた包括的な契約や、葬儀、事務手続きのみの個別的な契約など、自由に契約できるため利便性の高いサービスと言えます。
遺言で相続割合を変更することも可能
子が複数人いる場合は相続割合は子の間では平等となります。しかし、遺言を用いればこの法定相続割合を変更することも可能です。
引きこもりの子と生活するのに十分な資金を持っている子がいる場合、引きこもりの子が心配で相続割合を増やしたいと思うこともあるでしょう。
生前に遺言を作成しなかった場合はそれが不可能ですが、遺言を作成した場合はそれが可能となるため検討の余地はあるでしょう。
ライフプランは両親が設計する!
自分達の死後、残された子の負担を少しでも減らすためには他にも色々と方法はあります。
例えば光熱水費や電話代等の名義を生前に子に移しておいたり(支払は従前どおり親が行う)、積み立て型の葬儀社にお願いしておき、亡くなった際の葬儀の手続きを簡単にできるようお願いしておく等、生前に考えておけることは考えておきましょう。
しかし一番の理想は「子に社会復帰して欲しい」ということだと思います。お子さんが若ければ若いほど、就職に関しては有利に働くと考えられています。
まずは自分が亡くなった後のサポート体制を整えておき、生活保護を受給することを念頭に置いた最低限生きるためのライフプランを立てておきましょう。その上で自分が元気なうちに子の社会復帰のための対策を進めていくことが安心して老後を送るためには重要と言えるでしょう。
※埼玉親なき後総合サポートセンターでは、引きこもりのお子様を持つご両親のサポートを行っています。ご自身が亡くなった後のお子様のライフプランを設計し、生前にできることは早めにやっておくことが安心した老後を送ることにつながりますのでぜひご活用ください。